ミットを打ったとき、指導者から「もっと体を使え」と言われたことはないでしょうか。
言われた瞬間はわかった気がする。でも次の一発を打つと、また同じことを言われる。何年もボクシングや空手を続けていても、「体を使う」という感覚がなかなかつかめない、という方は少なくありません。
格闘技の打撃が変わるって、どういうことか

「打撃が変わる」というと、フォームの修正や技の種類が増えることだと思われがちです。でも多くの場合、変化のきっかけは技術の追加ではありません。
パンチが軽い、蹴りがブレる、連打が続かない。こういった悩みを持つ方の動きをよく見ると、共通して「体のどこかでブレーキをかけながら打っている」ことが見えてきます。腕に力を入れながら打つ、肩をすくめながら打つ、膝が伸び切ったまま蹴る、といった状態です。
力を入れているのに伝わらない、というのはそういうことです。
力が「出ている」と「伝わっている」は別の話で、体のどこかが詰まっていると、出しているはずの力が拳や足先まで届きにくくなります。水道管のどこかが詰まっていると、蛇口をいくら開けても水の勢いは変わらない、というのと近いかもしれません。
「体を使う」とはつまり、力の通り道が整っている状態で動く、ということに近いと思います。
技術を足す前に、まず体の通り道がどういう状態かを確認すること。これが打撃を変える入口です。技術の量でなく、体の状態が先、という考え方です。
パンチや蹴りが変わったという方の話を聞くと、「フォームを直した」というより「立ち方が変わってから打撃が変わった」という流れのことが多いようです。立ち方については記事の後半でも触れますが、まずはシャドーボクシングという練習の使い方から見ていきます。
シャドーボクシング、何を確認する練習として使っていますか
シャドーボクシングは、格闘技の練習として広く行われています。ただ、何を意識してやるかで、練習の質がずいぶん変わります。
よくあるのは、スピードを上げることや、コンビネーションの確認に集中するパターンです。それ自体は悪くないのですが、体の使い方がまだ身についていない段階でスピードを上げると、今の動きパターンをそのまま速くしているだけになりやすいです。
では何を確認するのか。
シャドーボクシングを「体の使い方のチェック」として使う場合、ゆっくりした動きの中で「力が入りすぎていないか」「足の裏がどんな状態か」「肩がすくんでいないか」を確認していく使い方があります。
鏡の前でゆっくりジャブを打ってみたとき、肩が上がっている、腕だけが伸びている、軸足が浮いている、といったことに気づく方がいます。速く動いているときは見えなかったことが、ゆっくりにすると見えてくる、ということです。
シャドーボクシングのもうひとつの使い方として、フットワークを加えながら自分の動きを観察する、という方法があります。止まって打つときと、動きながら打つときとで、体の状態がどう変わるかを確認するわけです。
動きながらだとうまく打てない、というのは多くの人が感じることです。それはフットワークの技術というより、動くことで体の状態が崩れているから、ということが多いようです。シャドーボクシングで「動きながら体の状態を保てているか」を意識すると、練習の意味が少し変わってきます。
シャドーボクシングって意味ないですか?
よく聞く声です。何となく動いているだけ、という感覚になる方も多いようです。ただ、「体の使い方の確認」という目的を持って使うと、変化を感じやすくなる方がいます。動きを止めて、力の入り具合を感じながらゆっくり打ってみる。それだけで、ミットを打つときの感覚が変わったという話があります。道具なしで体の状態を見直せる練習として、使い方次第では有効な手段です。
ジャブ・ストレート・フック、それぞれ何を意識したらいいか
パンチにはいくつか種類がありますが、どれも根本にあるのは「地面から始まる力の流れ」という考え方です。足の裏が地面を踏み、膝・股関節・体幹・肩・肘・拳、という順番で力が連動して伝わっていく。この流れがスムーズに起きているときのパンチは、腕だけで打つパンチとは質が違います。
コーチに「全身を使え」と言われるのは、このことを指していることが多いようです。
ただ、「全身を使う」というのは意識で追うのが難しい。全部を同時に意識しようとすると、どこも中途半端になりがちです。局面ごとに「何に意識を向けるか」を変えていくほうが、変化を感じやすいです。
ジャブ|速さより「体と一緒に出ているか」
ジャブは速度が重要視されますが、腕だけで出しているジャブは、速くても軽くなりがちです。重心がわずかに前に乗りながら体と一緒に腕が出る、という感覚で打てると、スピードはそのままで重みが乗りやすくなります。
「体の前傾と腕の動作がすっと連動する感じ」と表現する方もいます。腕を伸ばそうとするより、体が前に出た結果として腕が届いている、というイメージに近いかもしれません。
ストレート|腰の回転と肩の抜き方
ストレートは体の回転を使うパンチです。よくある間違いは、腰を回すことに意識が集中して、肩に力が入ったまま打つことです。
肩に力が入ると、腰がいくら回っても力が肩のあたりで詰まりやすくなります。腰を回す前に、肩の力が抜けている状態をつくる。その順番が変わると、伝わり方が変わります。
腰の回転と肩の抜きが連動したとき、すっと体が開く感覚がある、と表現する方がいます。
肩の力みについての詳細は、肩の力が抜けないと、突きも蹴りも伸びない をご覧ください。
フック|腕でなく体ごと弧を描く
フックは横から弧を描くように打つパンチで、腕に力を込めがちな技術でもあります。しかし腕に力が入ると、フォームが固まってかえってスピードが出にくくなります。
体幹ごと回転する感覚で動くと、腕は体に引っ張られるように自然に動きます。このとき、肩に力を入れようとしないほうが、結果として鋭い打撃につながりやすいようです。
「腕で打とうとするのをやめたら、フックに体重が乗りやすくなった」という話があります。腕の動作より体幹の回転を先に意識する、という切り替えです。
パンチ力の体の使い方の詳細については、パンチ力を上げる方法は腕の太さじゃなかった をご参照ください。
また、手打ちになりやすい方は 手打ちパンチはなぜ弱いのか に具体的な体の使い方の話があります。
前蹴り・回し蹴り・正拳突き、蹴りで大事な軸足の話
蹴りは、軸足(地面についているほうの足)の状態が、打撃の質に大きく関わります。軸足が不安定だと、蹴る足がどれだけ正確に動いても、力は伝わりにくくなります。
パンチと同様に、蹴りも「足の裏からの力の流れ」が根本にあります。ただ蹴りの場合、片足で立つ瞬間があるため、軸足の状態がより直接的に影響します。
前蹴り|軸足の踏ん張りと股関節の使い方
前蹴りは、蹴る足だけに意識が向きがちですが、軸足の踏ん張りが安定しているかどうかが土台です。
軸足の膝が伸び切ったまま蹴ろうとすると、体がふらつきやすくなります。軸足の膝をわずかに曲げ、どっしりと地面に接している感覚があると、蹴る足が自然に出やすくなります。
前蹴りのあとに体勢が崩れやすい方は、蹴り足の軌道より先に、軸足の安定を確認してみると変わることがあります。
回し蹴り|軸足の回転と体全体の連動
回し蹴りは体の回転と足の軌道が連動する技術です。ここでも軸足の回転が重要で、軸足がしっかり回ると体幹・股関節・蹴り足の動作が連動しやすくなります。
「軸足がうまく回っていないとき、蹴りがぶれやすかった」という話があります。蹴り足の軌道を修正しようとするより、軸足の使い方を見直したら安定した、という事例です。
回し蹴りがうまくいかないとき、膝の使い方や蹴り足のフォームを直そうとしがちですが、軸足側の股関節の動きを確認すると、全体が変わることがあります。
正拳突きで体が連動するとき
正拳突き(せいけんつき)は、空手をはじめとした格闘技・武術で行われる基本の突き技です。握りこぶしの人差し指・中指の関節部分で打つのが基本で、腕を真っすぐ前に伸ばしながら打ちます。
シンプルな動作に見えますが、体の使い方が変わると印象がまったく違う技術です。
腕の力だけで突くのと、足の裏から体幹を通して突くのとでは、形は似ていても力の伝わり方が変わります。「腕に力を入れて突いていたときより、体が連動している感覚で突いたほうが重かった」という話があります。
正拳突きの練習では、腕をまっすぐ伸ばすことより「どこから力が来ているか」に意識を向けると、変化を感じやすくなります。足の裏が地面をぐっと踏んでいる感覚から始まって、体幹がつながり、最後に拳が届く、という流れを確認しながら打つ練習です。
ゆっくり打ってみると、自分がどこで力を止めているかに気づきやすくなります。
動きながら体の状態を保てていますか
打撃の練習では、構えた状態での技術が中心になりがちです。しかし実際の動きでは、フットワークで動きながら打つ場面が多くなります。
フットワークが打撃に与える影響は、距離をとるためだけではありません。
動きながら「体の状態」を保つことができるかどうかが、動きながら打ったときの打撃の質に直結します。止まったときはうまく打てるのに、動きながらだとうまくいかない、という方は、動いているときに体の状態が崩れていることが多いようです。
フットワークの基本は、常に軽く動ける重心の高さを保つことです。足先だけで移動しようとすると、上半身が固まりやすくなります。足全体・股関節の動きを使いながら移動すると、動きの中でも体の状態が保ちやすくなります。
「フットワークを変えたら、動きながら打ったときの感触が変わった」という話があります。足の使い方が変わると、上半身の力みが取れやすくなることがあるようです。
動きながら打つ練習をするとき、打撃の動作より先に「フットワークで動いているとき、体の状態が崩れていないか」を確認するほうが変化が出やすいです。フットワークと打撃をセットで練習する前に、フットワーク単体で体の状態を確認する時間を取ってみてください。
動いているときの体の状態を確認する手段としても、シャドーボクシングは有効です。フットワークをしながらジャブを打ってみたとき、止まって打つときと感触がどれくらい違うかを確認してみてください。差が大きいほど、動きながら体の状態が変わっていることになります。
強くなる人は「立ち方」が違う
格闘技の指導をしている方の中には、「上達が早い人は、最初から立ち方が違う」という話をする人がいます。
技術を積む前から、すでに体の状態が整っているということです。
逆に言えば、技術をいくら積んでも、立ち方・体の状態が変わっていないと、技術が生きにくい。そういう見方があります。
パンチにしても蹴りにしても、シャドーボクシングやフットワークにしても、根本にあるのは「そのとき体がどういう状態か」という話です。フォームを整えること・動きを修正することは大切ですが、その前に「立っているときの体の状態」を見直してみると、変化の入口になりやすいようです。
特定の技術を練習するより先に、「ただ立っているとき、体はどんな状態か」を確認してみることをすすめる指導者は少なくありません。肩に力が入っていないか、足の裏はしっかり地面を感じているか、膝は少し余裕があるか。こういった「立つ」状態の確認が、打撃の土台になるという考え方です。
強い打撃を出したいとき、まず技術を探す前に、立ち方から見直してみる。そういうアプローチが、遠回りに見えてかえって近道になることがある、という話は、格闘技の世界でよく聞きます。
3年変わらなかった打撃が、立ち方を変えることで動き始めることがあります。もう一度アプローチを変えてみようと感じたら、実際に体を動かして確かめてみてください。
このサイトでは、各局面の体の使い方を分けて詳しく書いています。気になるところから読んでみてください。


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